<執筆担当>
~あんしん相続プランナー~
司法書士
大澤まどか

新制度と対処法

2024年4月1日より、相続登記の義務化が始まりました。これは不動産登記の長い歴史の中で、所有権の権利移転の登記について初めて公法上の義務を課した制度です。これまでは、相続によって不動産を取得しても、登記は義務ではなく、しないまま放置しているケースが数多くありましたが、罰則(過料)も設けられたという大きな変化がありました。

今回は、この新制度がなぜ導入されたのか、私達の暮らしにどのような影響があるのか、実際にどう対応していけばよいのかについて、司法書士の視点からやさしくご説明します。

背景にある「所有者不明土地問題」

相続登記の義務化の背景には、年々深刻化している「所有者不明土地問題」があります。

2020年の国土交通省による調査によると、日本全体における所有者不明土地が占める割合は約23%にものぼり、九州本島の大きさに匹敵するともいわれています。また、そのうちの約63%が、「相続登記がされていないこと」によるものです。  

今後、高齢者人口が増加し、多数の相続が発生する時期を迎える中で、所有者不明土地は更に増えることが見込まれており、その解決は喫緊の課題とされています。

こうした所有者不明土地は、次のような様々な社会問題を引き起こしています。

公共事業や災害復興の遅延

インフラ整備や災害復興事業、防災対策を進める際に、対象土地の権利関係の調整が難航し、大きな支障となります。例えば、急傾斜地の所有者不明のため崖崩壊対策が行えず自治体が苦慮しています。

土地の利活用の障害

公共、民間を問わず、事業を進める場合に大きな障害となっています。例えば、広場として整備すればグラウンドとして利用出来る土地であっても、私有地のため生い茂る樹木の伐採すら出来ず、景観は乱れたまま有効活用出来ない土地があります。

土地の管理不全による環境悪化

管理が行き届かない土地は、植木の腐朽や台風等による倒木、枯葉、雑草の散乱、樹木が道路や隣家へ張り出してきて交通障害や通行人への危険が発生し、景観の悪化を招きます。また不法投棄の温床にもなっています。

空き家問題

土地とその上の建物は、同一人名義であることも多いため、土地の所有者が不明な場合、その上に建つ空き家も権利関係が不明なことが多くあります。建物が空き家状態で管理が行き届かない場合、建物損壊の危険性に加えて、小動物の住処となってしまったり、病害虫の発生による衛生面の悪化、悪臭の発生など、通行人ほか地域住民の不安に繋がります。

こうした問題を受け、国はついに不動産登記の歴史上初めて、相続登記の義務化という措置を取り、法律を制定し、大きな一歩を踏み出したのです。

登記はいつまでに必要?「3年以内」が原則です

今回の制度改正で最も重要なのが、相続が発生したことを知った日から「3年以内」に登記しなければならない、という期限が設けられたことです。この3年のカウントがいつから始まるのかは、特に重要なポイントです。

この「知った日」とは、具体的に次の2つの要件を満たした日です。

  1. 自己のために相続の開始があったことを知り
    かつ、
  2. 当該所有権を取得したことを知った日

例えば、ご自身が相続人であることを知り、さらにその相続対象に当該不動産が含まれることを知った日から3年のカウントが始まります。よって、ご自身が知らない間に3年の期限が経過してしまうという心配はありませんのでご安心ください。
また、この期限を過ぎても、直ちに過料の制裁があるわけではなく、法務局から、この期間内に登記をしてくださいという「催告書」が送付され、それでも登記がされない場合は、10万円以下の過料が科されることになっています。

例えば、親御さんが亡くなり、ご自身が相続人であること、親御さんがその不動産を所有していたことを認識した日から3年がスタートします。一方で、遠い親戚の相続で、まさか自分が相続人になるとは思っていなかったケースや、相続人ではあることは知っていても、その方がその不動産を所有していたことを知らなかったケースなどでは、それを知った時点から初めて3年がカウントされることになります。

また、2024年4月1日以前に発生した相続については猶予期間が設けられており、上記のカウント要件の1.2.について、次のように読み替えます。

  1. 自己のために相続の開始があったことを知り
    かつ、
  2. 当該所有権を取得したことを知った日又は2024年4月1日のいずれか遅い日

よって、新制度が始まる前の相続であっても、2024年4月1日より前の日付から3年がカウントされることはありませんのでご安心ください。

新制度「相続人申告登記」の活用と注意点

「相続人申告登記」は、新制度で導入された新しい登記です。これは、相続登記の申請義務を簡単に履行できるように設けられた登記制度で、義務を免れるため一つの有効な対処法です。

有効な場面

遺産分割協議が円滑に進まず、所有権が誰に帰属するのか決まらない場合や、相続人が多数存在し、連絡が取れない相続人があり話し合いができないといった状況など、後述の「正当な理由」がある場合にも活用できます。

メリット

相続登記をするためには、有効な遺言書が無い限り、原則として相続人「全員」の合意がなければ難しいのですが、この相続人申告登記は、相続人のうちの「1人だけ」でも法務局に申出ることができます。申出がされると、法務局の登記官の職権で「相続人申告登記」がされ、その方の住所氏名が登記簿に記載されます。そうすると、その方は相続登記の申請義務を履行したものとみなされ、3年が経過しても過料が科されることはなく、また、その前段階の「催告書」が送付されることもありません。

注意点

あくまで「義務」を免れるための登記です。また、申告登記を申出した相続人のみが義務を履行したとみなされるのであって、申出をしていない他の相続人は、義務を履行したとみなされるわけではありません。
更に、相続人申告登記がされたからといって、当然のことながら所有者が最終的に確定されたわけではありません。よって、根本的な問題解決とはなっていないので、土地の売却や活用などには、正式な相続登記が必要で、相続登記がされない限り行うことは出来ません。

罰則はあるの?10万円以下の「過料」とは?

相続登記の義務を怠った場合に科される10万円以下の過料について、その適用基準と、過料を免れるための回避策をご説明します。

過料が科されるプロセスとしては、まず法務局から「相当の期間を定めてその期間内に登記をしてください」という「催告書」が送付されます。その期間内に登記が行われない場合に、過料に処せられることになります。

ただし、義務の履行がなかった場合に「正当な理由」がある場合は、過料は科されません。

正当な理由として、以下の5つが挙げられています。

  1. 数次相続の発生: 相続人が極めて多数で、相続人調査に時間が掛かる場合。
  2. 争いの発生: 遺産分割を巡る争いがあり、誰が不動産を取得するのか決まらない場合。
  3. 重病: 相続登記の申請義務を負う者が重病等の事情がある場合。
  4. DV被害者等: 相続登記の申請義務を負う者がDV被害などで避難を余儀なくされている場合。
  5. 経済的困窮: 相続登記の申請義務を負う者が経済的に困窮しており、登記費用の負担能力がない場合。

これらの理由がある場合は、登記官に事情を伝え、それが認められれば過料の制裁は免れることになります。
しかし、これらの理由がない限りは、催告書が送付されてから、その期間内に相続登記を申請しなければ、10万円以下の過料が科されることになります。

今こそ、不動産と家族の「これから」を考えるとき

相続登記の義務化は、単なる手続きのお話ではなく、長年放置されてきた日本の不動産問題を解決するための重要な一歩であると感じています。

これまで相続登記に期限がなかったため、実際には、ご実家の不動産謄本などをご覧になる機会は少ないと思われ、ご自身の知らないところで、未了の相続登記が発生しているケースは多々あると思われます。これを機に、ぜひご自身の財産や家族との繋がり、将来に向けての安心を得るためにも良いきっかけにして頂ければと願います。

ご自身の親世代の相続までは親族関係や不動産の情報が共有されていても、特に祖父母世代以上の相続などでは、相続人同士の関係性が疎遠となり、誰が何を持っているのか、また連絡先が分からない場合も少なくありません。そのような場合に、「早めに登記を行うことが将来のトラブルを最小限に抑える最大の鍵」になってくると思います。

最後に、司法書士からのメッセージ

私たち司法書士は登記の専門家であり、中立的な立場から相続手続のサポートを行うことができます。

相続人の皆さまのお話を丁寧に伺いながら、どのようにその不動産を相続していくのが最善か、法律知識や豊富な実務経験に基づいたアドバイスを提供しながら円満な解決につながるよう一緒に考えてご提案させて頂きます。

各自の法定相続分など法律上の前提をお伝えした上で、当事者間のお話し合いの調整役としてお役に立つことが出来ると考えています。

「相続登記って何から始めたらいいの?」「うちの実家の土地は相続登記されているのかな?」そんな疑問があれば、どうぞお気軽にご相談ください。

3年という期間は、一見長いように思えても意外とすぐに過ぎてしまいます。特に数世代前の相続については、戸籍を確認する相続関係の調査だけでも1、2ヶ月掛かることも珍しくありません。その後の話し合いとなると、あっという間に時間が過ぎていきます。放置すればするほど、相続人が増え、関係が複雑化し、解決が困難になるリスクが高まります。

「まだ大丈夫」ではなく、「今」からできることを一歩ずつ。

「3年」という期間は、一見長く感じられるかもしれませんが、「今すぐ行動を起こす」ことに越したことはありません。

相続登記義務化を良い機会ととらえ、ご自身の不動産や、ご両親・ご祖父母から受け継ぐ可能性のある不動産について、改めて目を向け、専門家とともに将来を見据えた対策を講じることをお勧めします。

ご家族の大切な不動産について、家族と話し合われてみてはいかがでしょうか?


執筆担当

司法書士

大澤まどか 司法書士事務所
大澤 まどか

所属団体:東京司法書士会、簡裁訴訟代理等関係業務認定会員
資格等:司法書士

~人間味のある温かな法律サービス、それが私の目指すところです~

私の法律家としての使命は、依頼者の思いを的確に汲み取り法律の力を使って、ご依頼者が満足して頂ける結果をカタチにすることです。
例えば、登記という1つのカタチに辿り着くまでには、相続であれば遺言書作成や遺産分割などの場面があります。単なる登記手続代理というだけではなく、ご依頼者一人一人の立場や思いを大切にしながら ベストな法的アドバイスが出来るよう努めております。

事務所HP:https://osawa-law.jp/

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