
<執筆担当>
~あんしん相続プランナー~
司法書士
大澤まどか
相続をきっかけに不動産を所有された方の中には、「いずれ売却して現金化したい」「維持管理が大変なので手放したい」とお考えになる方が多くいらっしゃいます。
ところが、実際に売ろうと思って動き出したとき、「あれ?まだ親の名義のままだった…」ということに気づき、「名義を変えないと売れない」という“壁”に直面することがあります。
このコラムでは、その「名義変更の壁」の正体と、スムーズに乗り越えるための方法を、わかりやすくお伝えしたいと思います。
なぜ名義を変えないと売れないのか?
不動産を売るには、まず「登記名義人(登記簿に記載された所有者)」が、買主と契約を結ぶ必要があります。
ところが相続後の名義変更(=相続登記)をしていないと、登記簿上の名義は「亡くなった方」のままになっています。
亡くなった方と契約はできないため、売買契約はできず、不動産会社に仲介を頼むことすら難しくなります。
買主の立場で考えてみて頂けるとイメージしやすいかもしれません。
「この不動産、欲しいな」と思って登記簿を確認したら、売主として話をしている人の名前ではなく、見知らぬ人(実際は亡くなった親)の名義だったら…。
「この人、本当にこの不動産の所有者なのかな?」と、不安になりますね。
相続した不動産を売るには、「まず相続登記をして自分の名義に変更する」ことが必要です。
登記制度の役割と“公示”の考え方
何故、そもそも不動産登記が存在するのでしょうか。
不動産の登記制度は、誰がその土地・建物の所有者かを誰でも確認できるようにすることで、安心して取引できるようにするものです。
これを「公示(こうじ)の原則」といいます。
登記がされていれば、その不動産が誰のものなのか、どんな権利関係があるのかを、第三者(たとえば買主や金融機関)が調べることができます。つまり、登記の存在によって、不動産の取引の安全が守られているのです。
そのため、名義人が亡くなったままにしておくと、正しい所有者が誰なのか分からなくなり、取引の安全が損なわれてしまうのです。
売却のための相続登記 2つの注意点
(1)数次相続とは?相続人が“ねずみ算式”に増える!?
数次相続(すうじそうぞく)とは、相続登記をしないまま放置していた間に、相続人の一部が亡くなり、次の相続が発生してしまった状態のことをいいます。
例えば:
* 昭和の初めに亡くなった祖父の名義の土地がそのままになっていた
* 相続人だった子ども(あなたの親)も亡くなり、さらに孫世代に相続が連鎖する
* 気づいたら相続人が15人以上に!
このように相続人が“ねずみ算式”に増えてしまうと、手続きが非常に複雑になります。
連絡先が分からない相続人、海外に住んでいる人、音信不通の人…。
さらには認知症などで意思表示ができない相続人がいる場合、家庭裁判所で後見人を選任する必要があり、これも数ヶ月の時間と手間がかかります。
司法書士としても、調査には膨大な戸籍の収集が必要です。なかには明治時代の戸籍までさかのぼることもあり、取得だけで1~2ヶ月かかるケースもあります。また実際にあるケースとしては、相続人が外国人と結婚し、その子供の戸籍が日本に存在せず調査が難航するということもあります。
まさに「早めに相続登記をしておけば、こんなに相続人も増えなかったのに」ということになりかねません。
このような数次相続は、相続登記義務化がきっかけとなり、過去に放置されていた「昔の相続」が掘り起こされることで、ご相談が増えているのが実情です。
また、このような「昔の相続」については、国の方でも対策に乗り出しています。登記名義人の死亡後10年を超えて相続登記がされていない土地に「長期相続登記未了土地」である旨の登記を職権で行い、同時に、相続人に「長期間相続登記等がされていないことの通知」を送付しています。実際に、その通知を受け取られた方からの相続登記のご相談も増えています。
(2)共有状態のままでは、売却に制約があることも!
共有とは、一つの不動産を複数人が各自の持分をもって共同所有している状態です。
不動産を複数人で共有していると、たとえ1人が売却したくても、「他の共有者全員の同意」がなければ売ることができません。
また、共有状態のまま相続が繰り返されると、将来的に「いとこ同士」「全く面識のない人同士」が一つの不動産を共同所有することにもなります。
共有状態のトラブルとしては:
・一部の共有者が反対して売却できない
・管理や固定資産税の負担が不公平になる
・利用方法を巡って意見が対立する
・自分の持分だけを売ると、価値が大きく下がる
などが挙げられます。
こういったリスクを防ぐためには、相続の段階で共有にしない(単独相続)ことが出来ればベストです。それが難しくても、遺産分割の方法として、不動産を相続した方が、不動産を相続しなかった相続人に不動産の代わりとなる金銭を支払う(代償分割)、不動産を売却した代金を分ける(換価分割)方法があります。これらの方法によって、結果的に共有状態を避けることが可能な場合があります。
また、既に共有状態にある場合は、共有関係を解消するため、他方の共有者が持分を買い取る方法(共有物分割)もあります。
売却を見据えて、これらの方法を検討することで売却がスムーズに進むことにつながるでしょう。
司法書士に依頼する3つのメリット
司法書士は、登記の専門家であり、不動産の実務経験も豊富です。相続登記を任せることで、次のようなメリットがあります。
「漏れなく」確実な登記
相続登記において、特に注意が必要なのが「不動産の漏れ」や「相続人の漏れ」です。
(1)不動産の「漏れ」防止!
例えば、戸建て住宅の場合、いわゆる建物の「底地」となる土地だけではなく、「私道」を周りの所有者と共有していることがあります。また隣の土地との境界線を定める際に、土地を細長く切って売買や贈与をして細かな分筆された土地を所有しているケースもあります。
これらの不動産の存在は、不動産の課税明細に記載されていないケースもあり、一般の方は認識されていないことも多く見落とされがちです。
私たち司法書士は、登記を受任する際に必ず公図などを取得し、周辺の土地の登記名義を調べ、漏れがないように細心の注意を払って調査を行います。
万が一、相続登記に不動産の漏れがあった場合、気づくのは後日、いざ売却しようとした際に発覚することもあります。その場合、改めてその小さな土地だけのために相続登記をする必要が生じます。場合によっては、遺産分割協議をその土地のためだけに再度やり直すこともありますので、注意が必要です。
(2)相続人の「漏れ」防止!
戸籍を調査すると、実は知らない相続人がいらっしゃったというケースは珍しくありません。例えば、先妻の子や認知された子、縁組された養子の存在などです。特に、数世代前の相続や、ご親族から生前に聞かされていなかった場合などは、ご自身で戸籍を集められても相続人の見落としがあることがあります。相続人全員の合意なく行われた遺産分割協議は無効となるため、専門家による確実な戸籍調査を頂くのが安心です。
(3)相続登記について相続人間の調整役となれる
その不動産をどのように相続するのが望ましいのか、相続人のお話を伺いながら、中立的な立場から、不動産の実務経験に基づくアドバイスも交えてご相談に乗ることが出来ます。相続登記に必要となる遺産分割協議書の作成や、各相続人からご捺印頂くための手続きもお手伝い可能です。
また相続登記後の売却についても、不動産業者と連携し、売買時の決済立会いや登記手続も含めたトータルでのサポートも可能です。
誰も相続したくない土地はどうすれば?
国庫に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」があります。2023年4月27日に創設された国の制度です。ただし、土地には条件がいくつかあります。また申請の際には、審査手数料を納め、受理された場合は、土地に応じた負担金の支払いが必要です。尚、こちらの制度を利用する場合は、相続登記がされていなくても申請可能です。詳細は、法務省のホームページをご確認ください。
また、有料で買い取ってくれる不動産業者もありますので、ご相談されるのも良いでしょう。但し、悪徳業者もあるのでご注意ください。
費用はどれくらいかかる?
相続登記にかかる費用は大きく分けて2つあります。
(1)登録免許税
不動産の固定資産税評価額に応じて、法務局に納める税金です。
税率:固定資産税評価額の0.4%
(例:評価額2,000万円の不動産 8万円)
但し、相続人以外の第三者が取得する場合は2.0%
(2)司法書士の報酬
司法書士に支払う手続報酬です。
報酬は自由化されており、事務所によって異なります。
多くの場合、不動産の評価額、相続人の人数、作成する書類の数、取得する戸籍の通数などによって変動します。 お見積もりは、ご相談の際にお伝えさせて頂いております。
まとめ ~「登記はお早めに」がトラブル回避の鍵~
不動産の売却の前提として相続登記を行うこと、またどのように登記するか、その内容も重要であることをご理解頂けたようでしたら幸いです。
2024年4月1日からの相続登記義務化は、これまで放置されてきた所有者不明土地の有効活用に向けた大きな一歩であると考えます。その中でも不動産売却は、その土地を有効活用するための重要な局面です。
「名義が親のままでも困っていないから大丈夫」と思っていても、いざ売ろうとしたときに「すぐに売れない状況」になっていることもあります。
*「そもそも何から始めたら良いか分からない」
* 「家族が多くて話し合いが難しい…」
* 「遠方なので自分で動けない」
そんなご不安をお持ちでも、一つひとつ丁寧にサポートさせて頂きます。
将来の世代に複雑な問題を先送りしないためにも、相続が発生したら、速やかに相続登記をして頂くことが最も賢明な選択です。
早めの行動が、将来のトラブルを未然に防ぎ、国策の一つである所有者不明土地問題の解決の一助となり、スムーズな不動産活用へと繋がります。
いつでもお気軽にご相談ください。
執筆担当

司法書士
大澤まどか 司法書士事務所
大澤 まどか
所属団体:東京司法書士会、簡裁訴訟代理等関係業務認定会員
資格等:司法書士
~人間味のある温かな法律サービス、それが私の目指すところです~
私の法律家としての使命は、依頼者の思いを的確に汲み取り法律の力を使って、ご依頼者が満足して頂ける結果をカタチにすることです。
例えば、登記という1つのカタチに辿り着くまでには、相続であれば遺言書作成や遺産分割などの場面があります。単なる登記手続代理というだけではなく、ご依頼者一人一人の立場や思いを大切にしながら ベストな法的アドバイスが出来るよう努めております。
事務所HP:https://osawa-law.jp/
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